• 2020/09/28

宮沢賢治の代表作はこれ!童話から詩まで必ず読みたい作品15選

宮沢賢治は37歳という短い生涯を終える間に、たくさんの名作を残しました。哀しさと美しさを内包する作品の数々は、現代を生きる私たちの心に響くものばかりです。そこで、古本店『もったいない本舗』のスタッフがおすすめする、宮沢賢治の代表作をランキング形式でご紹介します!

夜空を見上げる男性

宮沢賢治ってどんな人物?

宮沢賢治(1896-1933)は、童話作家・詩人として現代でも広く愛され続けています。中には、『銀河鉄道の夜』や『注文の多い料理店』など、子どもの頃に学校の教科書で読んだという人もいるのではないでしょうか。数々の名作をこの世に残しているものの、宮沢賢治の人となりについてはあまり知られていませんよね。彼の背景を知ると、よりいっそう作品の世界観に深みが出てくることと思います。

宮沢賢治ってどんな人?
  • 裕福な家庭に生まれたが、そのことに違和感を持っていた
  • 少年時代から鉱物マニアで、ハンマー片手に石を収集していた
  • 農業に精通し、農学校の教師として生徒たちを指導していた
  • 賢治の生前は、作品は全くと言って良いほど評価されなかった

宮沢賢治(みやざわけんじ)は、岩手県(現・花巻市)出身。質屋を営む裕福な家庭に生まれましたが、当時周囲の農民たちはたび重なる飢饉により貧困にあえいでいたといいます。賢治は、自分が何不自由なく暮らすことに違和感を感じていたようです。

家業を引き継ぎたくなかった賢治は、童話作家になるべく上京。そこで『注文の多い料理店』や『どんぐりと山猫』などが完成します。しかしその後、妹・トシが病気になったことを機に岩手に帰郷、花巻農学校の教師となりました。そこで生徒たちに農業指導をしていましたが、その後は教師を辞め自ら農耕生活を経験。賢治のストイックともいえる性格が見え隠れするエピソードですよね!

子ども時代からの趣味の鉱物集めや、農業の大変さ、岩手の豊かな自然など、さまざまな体験が作品の随所に表れていますが、意外にも生前の賢治はほぼ無名だったようです。37歳という若さで病死した後、数多くの未発表原稿が評価され、いまや知らない人はいない国民的作家となったのです。

【童話】心に響く名作揃い!スタッフおすすめ10選

宮沢賢治といえば、「童話」が有名です。基本的に短編小説が多いのが特徴。「童話」と言っても決して子ども向けの作品だけではなく、中には人間の愚かさや浅ましさが浮き彫りになるようなちょっぴり怖い作品もあります。「宮沢賢治の童話を1つも読んだことがない」という日本人は、おそらくいないのではないでしょうか。それぐらい私たちの生活に根付いた作家なのです。どれも甲乙つけがたい名作揃いですが、その中でも古本店『もったいない本舗』のスタッフsakuraがおすすめする10作品をご紹介します!

宮沢賢治の小説
1位 銀河鉄道の夜

『銀河鉄道の夜』は宮沢賢治の代表作。もはや説明の必要がないくらい、あまりにも有名な作品ですね!でも「ジョバンニ」と「カムパネルラ」というキャラクターぐらいは知っているけれども、実はきちんと読んだことがないという人も意外と多いのではないかと思います。ぜひ、一度は必ず読んで欲しい!sakuraは子どもの頃に初めて本作に触れましたが、それ以来ことあるごとに再読しています。「あぁ戻ってきた」という懐かしさと切なさ。そして読むたびに新しい発見があり、ほんの少し心が優しくなれるんです。

主人公の孤独な少年・ジョバンニが、親友カムパネルラとともに銀河鉄道の旅をするというのが大筋のストーリーです。パンと牛乳、角砂糖が並ぶ食卓。銀河のお祭りと町はずれに広がる牧場。そして銀河ステーション。日常と幻想の境目はとても淡く、読者はいつの間にか幻想世界へと連れて行かれます。悲しくなるほどに美しい描写で、童話としての完成度に加えあちこちに賢治の死生観が見え隠れします。「ほんとうのさいわいは一体なんだろう」とジョバンニがカムパネルラに質問するシーンがあります。これこそが賢治が生涯をかけて自らに問いかけていたことです。何度再読を重ねても作品の奥深さに驚かされるばかりです。

ほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば
僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。

by ジョバンニ『銀河鉄道の夜』

映像でも楽しみたい!

『銀河鉄道の夜』の世界観をもっと楽しみたいなら、映像で観るのもおすすめです!キャラクターを擬人化した「猫」に置き換えた杉井ギサブロー監督の作品が最も有名ですが、最近では、KAGAYA studio制作のプラネタリウム番組『銀河鉄道の夜』のクオリティが素晴らしいです。ここまで美しく宮沢賢治ワールドを描いてくれたKAGAYAさんに、いちファンとして感謝です。DVD/Blu-rayでも発売されていますので、ぜひあわせてご覧下さい。

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▼『銀河鉄道の夜』が収録されているのはこちら
新編 銀河鉄道の夜

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年6月
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2位 オツベルと象

『オツベルと象』と聞いて「懐かしい!」という声があちこちから聞こえてきそうですね。そう、小学生・中学生の学習教材としても使われている本作は、子ども向け童話かと思えば大間違い!sakuraは大人になってからじっくり読み返してみて、こんなにも色々な読み方ができる作品だったのかと考えを改めました。現に本作のラストで<謎の一文>があり、そのワンフレーズを巡ってさまざまな考察がされているほどです。

「オツベルときたら大したもんだ。」という独特の語り口から始まる本作。極悪人のオツベルに言葉巧みに言いくるめられ、労働を課せられる白象。最初は楽しく働いていた白象だけれど、オツベルは様子を見ながらどんどんキツイ労働をさせていくというお話です。日に日に衰弱していく白象…。なんと可哀想な。資本家と搾取される労働者。童話ですが、現代の社会の縮図とも言える構図ではないでしょうか?さて、その後オツベルと白象はどうなったのか。「のんのんのんのん」や「グララアガア、グララアガア」などのオノマトペが秀逸。一度聞いたら忘れられませんよね!


もう、さようなら、サンタマリア。

by 白象『オツベルと象』

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新編 銀河鉄道の夜

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年6月
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3位 注文の多い料理店

『注文の多い料理店』は、滑稽でありながらゾっと鳥肌が立ってしまうような童話で、子どもから大人まで楽しめる作品のひとつです。ある若い青年紳士2人が、猟犬を連れて森に狩りに行きます。でもその森は何だかとても奇妙な雰囲気。2人は案内人とはぐれ、猟犬も恐ろしさのあまり泡を吹いて倒れてしまうのです。(想像したらちょっと笑ってしまいますが)困り果てた2人の前に現れたのが、「山猫軒」というおしゃれな西洋料理店でした。

「髪をとかして、履き物の泥を落としてください」という注意書きを好意的に受け取る青年紳士たち。でも注意書きはだんだんとエスカレートしていきます。「金属製のものをすべて外すこと」「帽子とコートと靴を脱ぐこと」。そして最後は…!あらすじはご存じの方も多いかと思いますが、声に出して読んでみるとまた面白いですよ。おどろおどろしい空気感と、2人の呑気さ加減とのギャップが面白く、とても印象に残る作品です。


どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。

by 『注文の多い料理店』

山猫軒がここにあった!
山猫軒

岩手の宮沢賢治童話村というところに、本当に「山猫軒」があるんですよ!そして、入口の猫の看板には"どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。"というあのフレーズが書かれています。賢治ファンにはたまらないですよね。イーハトーブ定食や山猫すいとんセットなどが人気で、決して自分たちが料理されるわけではないのでご安心を(笑)

童話村では、ほかにも「銀河ステーション」や「賢治の学校」などがあり、宮沢賢治の世界観に思う存分浸ることができるんです。「宮沢賢治記念館」では、『猫の事務所』に登場するあの書記の猫たちがお出迎えしてくれます。

※画像をクリックすると拡大します。
▼『注文の多い料理店』が収録されているのはこちら
注文の多い料理店

注文の多い料理店 (新潮文庫)

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1990年5月(改版)
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4位 風の又三郎

「どっどど どどうど どどうど どどう」という印象的な書き出しで始まる『風の又三郎』。夏休みが明けた東北の小学校に、高田三郎という突然風変わりな転校生がやってくるお話です。その少年は髪が赤く、真っ黒な丸い目を持つ奇妙な風貌で、何故だか普通の常識が通用しません。少しずつ三郎に歩み寄る生徒たちですが、嘉助は彼の正体が"風の又三郎"であり風の神様の子だと信じ込むのです。

子ども時代にしか経験し得ないことってありますよね。キラキラと輝く自然や、不思議な体験、謎の転校生。大人になるにつれて、徐々にそんな感動は失われてしまうのですが、宮沢賢治はいつまでも少年の心を忘れません。本作を読むと今は戻れない子ども時代を思い出し、どこかノスタルジーな気持ちにさせられます。ちなみに本作に登場する「モリブデン鉱石」。鉱物に明るかった賢治ならではの描写ですよね。他の作品でもさまざまな鉱物が登場しますので、そこに注目して読んでみるのも面白いですよ!

どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう

by 『風の又三郎』

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新編 風の又三郎

新編 風の又三郎

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年3月(改版)
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5位 セロ弾きのゴーシュ

想像するだけでとても楽しい気持ちになれる童話が『セロ弾きのゴーシュ』です。賢治は実際にチェロ(セロ)のレッスンを受けたことがあったようで、そのときの経験が本作に活かされていると言われています。主人公ゴーシュは、町の活動写真館の楽団「金星音楽団」でセロを弾く係なのですが、楽団の中で最も下手くそでいつも楽長に怒られてばかり。必死に練習を重ねるゴーシュですが、リズムも音程も狂っていて、どうしても音に感情が入らないのです。

本作の面白いところは、ゴーシュの家を訪ねてくる動物たちとゴーシュとの掛け合いです。三毛猫をはじめとして、かっこう、狸の子、野鼠の親子とさまざまな動物たちがゴーシュの演奏に触れます。ゴーシュは卑屈で粗野で、読んでいて笑ってしまうぐらい口が悪いのですが、動物たちに知らず知らずのうちに訓練を受け、次第にセロが上達していくのです。そしていよいよ迎える舞台本番の日は…?sakuraがひとつだけ気になるのは、マッチを舌でシュッとすられた猫のその後です。それを横目で見ながら「もう来るなよ。ばか。」というゴーシュのあしらいが酷すぎる!(笑)

だってぼくのお父さんがね、
ゴーシュさんはとてもいい人でこわくないから行って習えと云ったよ。

by 狸の子『セロ弾きのゴーシュ』

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新編 銀河鉄道の夜

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年6月
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6位 よだかの星

賢治は弱者の視点から描いた童話を多く書かれていますが、『よだかの星』はその筆頭です。よだかは、カワセミやハチスズメなど美しい鳥たちの兄でありながら、くちばしは耳までさけて平たく、顔は味噌をつけたようにまだら。非常に醜い容姿を持って生まれてしまいました。他の鳥たちからはその不細工さから、常に仲間外れにされ疎まれているのです。

なんと切なく残酷な童話。心の美しいよだかは、その風貌だけで鳥だけでなく星からも相手にされません。そのうえ鷹からは「名前を変えろ、でなきゃつかみ殺す」と脅される始末!そんな可哀想なよだかが選んだ結末とは…。あまりにも理不尽な物語ですが、賢治の作品の中でもとりわけ教訓的な作品です。ちなみに『猫の事務所』も弱者が虐げられる不条理が描かれていますので、ぜひあわせて読んでみて下さい。

そしてよだかの星は燃えつづけました。
いつまでもいつまでも燃えつづけました。

by 『よだかの星』

▼『よだかの星』が収録されているのはこちら
新編 銀河鉄道の夜

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年6月
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7位 やまなし

かんたんな言葉で書かれているものの、実は"難解"と名高いのが『やまなし』です。sakuraは本作の持つ独特の空気感だったり、「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」というような賢治ならではの言葉選びがとても好きなのですが、この童話が何を伝えたいのか?と聞かれると正直首をかしげてしまいます。実際に本作についてはさまざまな考察があるようです。

「それならなぜクラムボンはわらったの。」「知らない。」谷川の底にいる二匹の蟹の兄弟の会話です。もう訳がわからないのですよ。クラムボンってなに?笑ったということは生き物なの?蟹たちが青白い水の底から見上げる幻想的な世界。キラキラ輝く黄金の光。そんな中投げ込まれた良い香りのするやまなしの実。本作の描写はあまりに儚く美しく、何度も何度も舌の上で転がしたくなるような極上の宮沢賢治ワールドが広がります。本作を読んで、皆さんはどんな感想を持たれるでしょうか。どなたか、「クラムボン」と「イサド」の正体を教えて下さい(笑)

蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなので
ねむらないで外に出て、
しばらくだまって泡をはいて天上の方を見ていました。

by 『やまなし』

▼『やまなし』が収録されているのはこちら
新編 風の又三郎

新編 風の又三郎

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年3月(改版)
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8位 グスコーブドリの伝記

前述したように、賢治が生前発表した作品はごくわずかなのですが『グスコーブドリの伝記』は中でも数少ない代表作です。著作の中ではSF色が強く他とは少し毛色が違う作風が特徴。イーハトーブ(賢治の造り出した理想郷)の森を舞台に、冷害による深刻な飢饉に挑もうとする青年グスコーブドリの生き様が描かれた作品です。

度重なる飢饉や農業経験、また妹ネリへの想いなどは、賢治自身の実体験をもとにしているのではないかと、いろいろな読み方ができそうな本作。ブドリが最終的に選びとった道は、賢治が何度も繰り返し使った「ほんとうの幸い」なのかもしれません。(とても悲しいけれど…。)童話の世界観でありながら科学的な要素もあり、「自己犠牲とは何なのか」とても考えさせられる作品です。

私のようなものは、これからたくさんできます。
私よりもっともっとなんでもできる人が、
私よりもっと立派にもっと美しく、
仕事をしたり笑ったりして行くのですから。

by グスコーブドリ『グスコーブドリの伝記』

映像でも楽しみたい!

『グスコーブドリの伝記』はアニメ映画化もされています。杉井ギサブロー監督が手がける本作は、『銀河鉄道の夜』同様に登場人物が「猫」なんです!監督によると、漫画家ますむらひろしさんの猫版『銀河鉄道の夜』を読んで、「猫ならこの作品の持つ透明感を出せる」と確信したそうで。sakuraもこの映画を観ましたが、確かに猫だからこそ、この世界観を壊さずに描ききれたのかなと思います。とにかく映像が綺麗、そして可愛い!

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新編 風の又三郎

新編 風の又三郎

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年3月(改版)
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9位 虔十公園林

読んだ後に優しい気持ちになれる『虔十公園林』(けんじゅうこうえんりん)は、大好きな童話のひとつです。主人公・虔十は、周りから「少しだけ頭が足りない」と思われている少年。青空をかけていく鷹の姿や、チラチラと光るブナの葉を見ては、その美しさに嬉しくなり手を叩いて喜ぶのです。(この気持ちわかります!)そんな中、虔十は家の裏手に杉苗700本を植えることを思いつきます。

本作で賢治が伝えたかったことは何なのでしょうか。自然を愛する気持ち、人々の目を楽しませる努力、それとも本当の賢さ?どれもが当てはまると思いますが、特筆すべきこととして家族の温かさを挙げたいと思います。「今まで虔十はわがままなんか言ったことがなかったんだから、杉苗を買ってやろう」という父親。それを聞いて安心したように笑う母親。虔十を陰ながら見守るお兄さん。虔十公園林のような人々に愛され続ける場所が、賢治の理想だったのではないでしょうか。

全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、
さはやかな匂、夏のすゞしい陰、
月光色の芝生がこれから何千人の人たちに
本当のさいはひが何だかを教へるか数へられませんでした。

by 『虔十公園林』

▼『虔十公園林』が収録されているのはこちら
新編 風の又三郎

新編 風の又三郎

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1989年3月(改版)
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10位 なめとこ山の熊

童話といえば、『なめとこ山の熊』も忘れてはいけません!「なめとこ山の熊のことならおもしろい。」という印象的な書き出しから始まる本作は、遊び心にあふれていながらも資本主義への風刺が見え隠れします。『なめとこ山の熊』は熊・熊打ちの猟師・荒物屋の主人というごくごくシンプルなピラミッドで成り立っています。熊は、熊打ちの小十郎にあっさり命を奪われますが、熊の毛皮と肝は荒物屋の主人により安く買い叩かれてしまうのです。

本作の面白いところは、まず小十郎が家族を養うために仕方なく熊を打っているところ。「この次には熊なんぞに生れなよ」と声をかけたりします。そして熊もそのことを理解していて、小十郎と熊との間に奇妙な友情(仲間意識)のようなものが芽生えているのです。結果的には因果応報というほかありませんが、資本主義と食物連鎖のピラミッドから逃れられるラストにどこか晴れ晴れとした気持ちになるのではないでしょうか。

小十郎は熊どもは殺してはいても
決してそれを憎んではいなかったのだ。

by 『なめとこ山の熊』

▼『なめとこ山の熊』が収録されているのはこちら
なめとこ山の熊

なめとこ山の熊 (ミキハウスの絵本)

作者 宮沢 賢治/あべ 弘士(イラスト)
出版社 三起商行
出版年月 2007年10月
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【詩】何度も読みたくなる美しさ。スタッフおすすめ5選

宮沢賢治は童話が取り上げられる機会が多いですが、実はたくさんの「詩」も残していることをご存じでしょうか?37年という短い生涯を終えるまでに、なんと賢治は800篇もの詩を書きました。誰もが知っている有名な作品もあれば、没後走り書きのメモが見つかった作品もあります。難解な作品も多くありますが、やはり詩の良いところといえば、読み手によって何通りもの解釈があるところではないでしょうか。それではsakuraがおすすめする宮沢賢治の詩5作品をひとつずつレビューしていきます。

宮沢賢治詩集
1位 永訣の朝

けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
( あめゆじゅとてちてけんじゃ )

by 『永訣の朝』冒頭

『永訣の朝』は、とても有名な詩です。2歳年下の妹トシの死を悼んで作られたと言われています。永訣、つまり永遠の別れの朝ということですね。何度読んでも、その哀しさと真っ白な純粋さが胸に迫ります。「ほんとうの幸い」を願い、身を粉にして他者に尽くし、最愛の妹を亡くしてしまった賢治にしか書けない詩なのではないでしょうか。美しく哀切にあふれた作品です。

あめゆじゅとてちてけんじゃ
補足ですが、引用部分でも取り上げている「あめゆじゅとてちてけんじゃ」は、岩手県の方言で「雨雪をとってきて下さい」という意味。まさに命のともしびが消えようとしているとき、妹は熱で火照った身体で「外の冷たい雨雪(みぞれ)が欲しい」と、兄に頼んだのです。どうすることもできない賢治は、お椀を手にみぞれが降りしきる外に飛び出した様子がわかりますね。トシは24歳という若さで病死しました。
2位 雨ニモマケズ

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ

by 『雨ニモマケズ』冒頭

こちらもあまりにも有名な詩なのでご存じの人も多いはず!賢治の没後に発見されたという『雨ニモマケズ』は、自らが目指す理想像が描かれています。全文を読んでみるとわかりますが、自分はほんの少しのもので満足し、他人のために何かをしてあげたいという自己犠牲の精神がこちらの詩に表れています。東日本大震災のときに、この『雨ニモマケズ』に被災地の多くの人たちが勇気づけられたといいます。

3位 春と修羅(mental sketch modified)

心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様

by 『春と修羅 mental sketch modified』冒頭

『春と修羅』は、賢治が生前に唯一刊行した詩集として知られています。(賢治はこれを心象スケッチと呼びました)その中でも、詩集の表題作となっているのが『春と修羅 mental sketch modified』。文中に出てくる"おれはひとりの修羅なのだ"というフレーズがとても印象的ですよね。「春」という言葉が持つ穏やかで優しいイメージと、「修羅」という怒りのイメージ。正反対にも思える「春」と「修羅」の対比が見事な作品です。

『春と修羅』がまさかの楽曲化!
蜜蜂と遠雷

ピアノコンクールを舞台にした青春群像劇『蜜蜂と遠雷』(恩田陸・著)では、なんと宮沢賢治の『春と修羅』が課題曲となっているんですよ!sakuraはこの原作を読んだときに「自由に、宇宙を感じて」という指示のカデンツァを聞いてみたいなぁ…と思っていたのですが、まさかの映画化。カデンツァは即興演奏なので、ピアニストの腕の見せどころ。登場するピアニストたちが『春と修羅』をどのように解釈しているのかも、演奏でわかってしまうのです。賢治の作品が、こんな形で現代に生まれ変わるとはと驚きました。『蜜蜂と遠雷』は原作・映画化ともに素晴らしい作品なので、ぜひあわせてお楽しみ下さい。

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4位 冬と銀河ステーション

そらにはちりのやうに小鳥がとび
かげろふや青いギリシヤ文字は
せはしく野はらの雪に燃えます

by 『冬と銀河ステーション』冒頭

とても陽気な気持ちになる詩が『冬と銀河ステーション』です。賢治が愛してやまなかった岩手軽便鉄道は、かの有名な『銀河鉄道の夜』のほか、この『冬と銀河ステーション』にも影響を与えました。ぜひ全文を最後まで読んで頂きたいのですが、冬特有のキラキラした朝、駅周辺の活気のある人々の様子が伝わってくるような、とてもにぎやかな作品です。

5位 小岩井農場

わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた
そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ
けれどももつとはやいひとはある

by 『小岩井農場』冒頭

小岩井農場と聞いて「あぁ、あの小岩井!」とひざを打つ人もいるのではないでしょうか。賢治は小岩井農場が大好きで、何度も訪れていたようです。賢治の作品にはありのままの自然の描写が多く取り入れられています。目にしたものを次々と書き連ねているだけなのですが、不思議と読む者に新鮮な視点を与えてくれます。変わりゆく風景は幻想味を帯びながらも生き生きと表現されていて、sakuraも大好きな詩のひとつです。

▼紹介した詩が収録されているのがこちら
新編 宮沢賢治詩集

新編 宮沢賢治詩集 (新潮文庫)

作者 宮沢 賢治
出版社 新潮社
出版年月 1991年8月(改版)
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宮沢賢治の作品に見られる<5つの特徴>とその魅力とは

宮沢賢治の作品には、独特の世界観があります。天才と呼ばれる作家・詩人はこの世に数多くいますが、年端のいかない子どもから、酸いも甘いもかみ分けた大人まで、時代を超えて愛される人というのは、なかなかいないのではないでしょうか。その理由に迫るべく、賢治の作品に見られる<5つの特徴>をひとつずつ紐解いていきましょう!

春の岩手山

① ふるさとの自然を思い出すような描写

賢治の作品には、ありのままの自然を見つめた情景がたくさん登場します。春は雪解け水が優しく流れる小川、夏は緑あふれる木々の香り、秋には山が燃えるように色づき、冬には冷たい銀世界が広がります。賢治の出身である岩手を思い起こさせる自然の描写は、読み手にも今まさに自分が体験しているかのような錯覚を与えるほど!賢治は、いつでも自分たちの心のふるさとに連れて行ってくれます。

② イーハトーブの世界観が見事

「イーハトーブ」という言葉をご存じでしょうか?これは賢治が造り出した造語なのですが、賢治の心の中にある理想郷のこと。もちろん故郷を愛する賢治のことですから、岩手がモチーフになっています。作中では、美しいイーハトーブ(イーハトーヴォ)の描写が数多く出てきます。『ポラーノの広場』や『イーハトーボ農学校の春』などが有名です。やがてそれは岩手だけにとどまらず、海を越え、山を越え、はるか銀河にまで昇り詰めるのです。賢治は生涯イーハトーブを追い求め続けました。

あのイーハトーヴォのすきとおった風、
夏でも底に冷たさをもつ青いそら、
うつくしい森で飾られたモリーオ市、
郊外のぎらぎらひかる草の波。

by 『ポラーノの広場』

③ オノマトペが独特で忘れられない

賢治の童話は一度読むと忘れられませんよね。それはなぜかというと、「オノマトペ」(擬音・擬態語)が至るところで効果的に使われているからなんです!たとえば、「ひゅうひゅう」「ぺかぺか」「ぼちゃぼちゃ」など。賢治が自然と向き合って生まれたオノマトペは印象的なフレーズばかりで、どうやったらこんな言葉を思い付くんだろう?と感心してしまいます。賢治のオノマトペを集めた本もありますので、ぜひ日本語の美しさを再発見してみて下さい!

一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、
どってこどってこどってこと、
変な楽隊をやっていました。

by 『どんぐりと山猫』

宮沢賢治のオノマトペ集

宮沢賢治のオノマトペ集

作者 宮沢 賢治/栗原 敦 (監修)/杉田 淳子 (編集)
出版社 筑摩書房
出版年月 2014年12月
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④ 難解だからこその面白さ

賢治の作品は、中には難解と言われる作品もあります。童話のところで前述もしましたが、たとえば童話『やまなし』に出てくるクラムボン。(sakuraは未だにわからない)童話ならまだ良いほうで詩に至ってはすべてを読み解くのは不可能ではないかというほど難解な作品もあります。宮沢賢治の研究をしている学者さんたちの間でも、未だに意見が分かれているものも数多く存在します。言い換えると、私たちはどんな読み方をしても良いのです!読み手の数ほどあらゆる解釈があります。繰り返し読み、あなたならではの賢治ワールドに浸ってみるのはいかがでしょう?

⑤ 「永久の未完成これ完成である」

「永久の未完成これ完成である」この印象的なフレーズは、賢治が『農民芸術概論綱要』の中で述べているものです。聞けば聞くほど、奥が深い言葉ではないですか?例のごとく、これもさまざまな解釈がありそうですが、"物事に終わりはない"ということなのではないでしょうか。今の時代、何でもすぐに結果を求められます。最短でゴールを目指すことが良しとされる。でも賢治は、追い求め続けることこそが人生であり、生きるための原動力と伝えたかったのかもしれませんね。

初心者なら「漫画」と「オーディオブック」もおすすめ

宮沢賢治の作品を読むのはハードルが高い!という人もいるでしょう。でも、賢治の作品は人生観が変わるほどにパワーを持つものばかりなので、「読まない」という選択肢は本当にもったいないです。そこで、読書が苦手な人や、もっと気軽に楽しみたい人、宮沢賢治初心者におすすめしたいのが「漫画」と「オーディオブック」です!

「猫」が斬新!漫画で楽しむ宮沢賢治ワールド

ますむらひろし版宮沢賢治

宮沢賢治の童話は比較的読みやすい作品が多いとはいえ、「やっぱり活字が苦手で頭に入ってこない…」という人も少なからずいると思います。そこでおすすめしたいのが、『アタゴオル』シリーズを描かれている漫画家・ますむらひろしさんによる"漫画版"宮沢賢治シリーズです。やはりますむらひろしさんだけあって、なんと登場人物がみんな「猫」なんです。最初こそ「斬新!」と思いますが、猫だからこそ宮沢賢治の美しく透明な世界観を描けるのかもしれませんね。『銀河鉄道の夜』をはじめ『グスコーブドリの伝記』やほか短編集などが発売されています。どれも心からおすすめします!

宮沢賢治のオノマトペ集

銀河鉄道の夜―最終形・初期形〈ブルカニロ博士篇〉

作者 宮沢 賢治/ますむらひろし
出版社 偕成社
出版年月 2001年7月
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オーディオブックで耳から楽しもう!

「なかなか本も漫画も読む時間がない!」という人は、オーディオブックで朗読を楽しんでみるのはいかがでしょうか?オーディオブックの良いところは、家事をしながら、車の運転をしながら、寝る前に横になりながらとさまざまな「ながら」シーンで気軽に朗読を聴くことができることです。宮沢賢治の朗読は、プロの声優さんのほか、宮沢りえさんや渡辺謙さんなどの俳優バージョンもあり、聞き比べてみるのも面白いですよ。心地よい語り口で、いつの間にか宮沢賢治の世界にとっぷりと浸ってしまうはずです。情熱大陸ナレーターの窪田等さんの『雨ニモマケズ』が本当に素晴らしいです。

まとめ

外出先で読書をする人

さて、ここまで宮沢賢治の代表作をご紹介してきましたが、まだ読んだことのない作品はありましたか?教科書では定番の宮沢賢治ですが、どうしてもただの学習教材として判断されがちです。でも賢治のルーツや物語が作られた背景を知ることで、より一層作品に奥行きが出てくるのではないでしょうか。

宮沢賢治の作品は、中には難解と言われているものもありますが、じっくり読み込むと決してハードルの高いものではありません。すべてを理解しよう、完璧な回答を知りたいと思うのではなく、そのときは難しく感じても自らのライフスタイルにあわせて節目節目で読み直してみるのをおすすめします。1年後、5年後、10年後。きっと同じ作品を読んでいても、感じ方はまるで変わっているはずです。傍らに置いて、成長とともに読み続けること。まさに賢治の言う「永久の未完成これ完成である」ですね!

古本店『もったいない本舗』では、宮沢賢治の作品を数多く取り揃えています。まずは童話集を、手に取ってみるのはいかがでしょうか。また興味のある人は、宮沢賢治全集を手元に置いておくのも良いでしょう。きっと末永くあなたの人生の指針になることと思います!

sakura
ライティング担当 : sakura

札幌在住30代。本や少年コミックを読むことが大好きで、家事の合間にハイボールを飲みながら読書をするのが至福のとき。小説はイヤミス、ホラー、児童文学まで好きなジャンルは多岐にわたり、ラストですべてがひっくり返される「大どんでん返し」本を好んで読む。子どもの頃からホラー映画が好きで、最近は『死霊館』や『インシディアス』など心の奥底まで恐怖心をかきたてられるようなジェームズ・ワン監督作品に魅了されている。

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