• 2020/06/03

【桜木紫乃おすすめ】絶対に読んで欲しい作品をランキングで紹介

北海道を舞台とした数々の名作を生み出す女流作家・桜木紫乃さんのご紹介です。北の大地の凍てつく空気を纏う桜木ノワールの世界にハマる人が続出中。男と女、親と子…ままならない運命に翻弄されつつ懸命に生きる人々の人生を描いた珠玉の作品をランキングにしてみました。

冬の夕暮れの釧路市

桜木紫乃って、どんな作家?

桜木紫乃さんは北海道の東にある漁業の街・釧路市で生まれ、結婚後はご主人の転勤に伴って道内を周り、現在は道央の江別市に居住しています。地元の江別市で講演会を開くなど、 まさに北海道に根を下している作家です。(※講演会は2020年2月開催済み)

デビュー作からこれまでに発表した作品は一貫して北海道を舞台に描かかれており、どの作品からも、桜木さんが自身の肌で感じてきた北海道の凍てつく空気を感じられます。

2013年に『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞。実は桜木紫乃さんのご両親は、その昔釧路でラブホテルを経営しており、そこを舞台としたのが本作。様々な男女の関係を目の当たりにしながら多感な思春期を過ごしたことが、彼女の創作の原点であるとも語られています。

また、本人は熱烈なゴールデンボンバーのファンを公言しており、直木賞受賞記者会見でゴールデンボンバーのボーカル鬼龍院翔が愛用しているタミヤのTシャツで現れて世間を驚かせるなどお茶目な一面も。

「良いこと、悪いこと、どんな経験も一つも無駄にはならない」と貪欲に小説の糧を探し続ける桜木紫乃さんの創作意欲は、まだまだ尽きることはなさそうです。

【桜木紫乃おすすめ13冊】もったいない本舗スタッフが選ぶランキング

さあ、それではさっそく桜木紫乃さんの小説を、桜木ファンである『もったいない本舗』スタッフotakeがランキングでご紹介したいと思います。正直言うと、順位がつけがたいものが多く悩みに悩みましたが、未読の人に少しでも興味を持ってもらえるよう、「ぜひ読んで欲しい!」との気持ちを込めて、13冊を選んでみました。

第1位  ラブレス

ラブレス

ラブレス

出版社新潮社

出版年月2011年8月

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(あらすじ)
馬鹿にしたければ笑えばいい。あたしは、とっても「しあわせ」だった。風呂は週に一度だけ。電気も、ない。酒に溺れる父の暴力による支配。北海道、極貧の、愛のない家。昭和26年。百合江は、奉公先から逃げ出して旅の一座に飛び込む。「歌」が自分の人生を変えてくれると信じて。それが儚い夢であることを知りながら―。他人の価値観では決して計れない、ひとりの女の「幸福な生」。「愛」に裏切られ続けた百合江を支えたものは、何だったのか?

(BOOKデータベースより引用)

老いた主人公・百合江が位牌を抱いて危篤状態にあるところから始まる、壮大な女たちの大河小説。位牌の人物にまつわる悲劇と意外な展開とは――。運命を呪うでもなく風の吹くままに生きた百合江と、対照的に自分の力で道を切り拓いていく妹・里実。そして2人の娘、理恵と小夜子。4人の女の人生をタペストリーのように織り込んで仕立てた、桜木紫乃の代表作で〈第19回島清恋愛文学賞受賞〉作品です。

「子どもは親を選べない」という言葉通り、生まれ落ちた環境により過酷な人生を強いられる百合江と里実ですが、果たして彼女らが歩んだ道は不幸だったのでしょうか?はたして幸せな人生とは?そんな問いを自然と読者も考えてしまうことでしょう。

厳しく辛いことの連続だった百合江の人生にも、たくさんの光があったことを証明してくれるラストシーンには流れ落ちる涙を止められません。「限りある生を生き切る。それだけで人は尊い存在である」という著者の力強いメッセージを感じる、女性への応援歌とも言える物語です。ちなみにotakeは読了後、物語の持つ強烈なパワーに圧倒され長い時間放心状態となりました…。


第2位  星々たち 

星々たち

星々たち

出版社実業之日本社

出版年月2014年6月 

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(あらすじ)
奔放な実の母親とも、二度目の結婚でさずかった実の娘とも生き別れ、昭和から平成へと移りゆく時代に北の大地を彷徨った、塚本千春という女。その数奇な生と性、千春とかかわった人々の哀歓を、研ぎ澄まされた筆致で浮き彫りにする九つの物語。

(実業之日本社ホームページより引用)

3世代に渡る母娘の人生を9つの物語で編んだ連作短編集。付き合う男性に振り回されて流転の人生を送る咲子、愚鈍な印象ながらも得体の知れない妖しさを放つ娘・千春。そして最後に登場する千春の娘・やや子。それぞれの人生が、彼女たちと関わる人々とともに各話で語られていきます。北海道の寒々しい空気感と、登場人物が抱える暗い過去や心の闇が全体的に陰鬱な印象を与えますが、不器用ながらもその時々を懸命に生きる彼女たちの姿には、したたかな生命力を感じます。

第7話から最終話までの構成は圧巻の一言。やや子が主人公となる最終話の、最終段落。「星はどれも等しく、それぞれの場所で光る。いくつかは流れ、そしていくつかは消える。消えた星にも、輝き続けた日々がある――。」他人からみれば不幸な人生も、精一杯命を燃やした星となって輝きを得る。長く暗いトンネルを抜けて光を感じさせてくれるラストに、きっと一筋の救いを見ることができるはずです。


第3位 霧(ウラル)

霧(ウラル)

霧(ウラル)

出版社小学館

出版年月2015年9月 

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(あらすじ)
今日から海峡の鬼になる。記念碑的傑作誕生ー。 舞台は、国境の町・根室。男の屍を越えて生きてゆく女たち。北海道最東端・根室は、国境の町である。戦前からこの町を動かしてきた河之辺水産社長には、三人の娘がいた。長女智鶴は政界入りを目指す運輸会社の御曹司に嫁ぎ、次女珠生はヤクザの姐となり、三女早苗は金貸しの次男を養子にして実家を継ぐことになっている。昭和四十一年の国政選挙で、智鶴の夫・大旗善司は道東の票をまとめ当選を果たした。選挙戦を支えたのは、次女・珠生の夫で相羽組組長の相羽重之が国境の海でかき集めた汚れ金だった。珠生は、大旗当選の裏で流された血のために、海峡の鬼となることを誓う。

(小学館ホームページより引用)

出版社が『記念碑的傑作』と謳うほど、まさに著者の代表作のひとつと言って間違いない小説。トドワラ、根室…など著者が描く東の果ての地の表現に、読者も北海道の冷たい風を感じられる映像的な小説でもあります。

夫・重之の裏切りを知ってなお一途な恋を貫く主人公・珠生ですが、揺れ動く心情と身に迫る危険に読者も手に汗握りつつページを繰る手が止められません。初恋のような純情を持ちつつ任侠の世界で姐さんとして生きる珠生がどうにも愛おしくて堪りません。「お願いだから珠生を悲しませないで…!」との読者の願いも虚しく非業の展開が待ち受けているのですが、そこは桜木作品。女の芯は強く、麦の穂のように踏まれてもなお立ち上がります。

まるで大作映画を観ているような読書体験をお約束します。お好みの俳優さん、女優さんを脳内で充てて読むのも一興。少しでも興味を持たれた方はぜひご一読を。損はさせません!


第4位 蛇行する月 

蛇行する月

蛇行する月

出版社双葉社

出版年月2013年10月

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(あらすじ)
人生の岐路に立つ六人の女の運命を変えたのは、ひとりの女の“幸せ”だった。道立湿原高校を卒業したその年の冬、図書部の仲間だった順子から電話がかかってきた。二十も年上の職人と駆け落ちすると聞き、清美は言葉を失う。故郷を捨て、極貧の生活を“幸せ”と言う順子に、悩みや孤独を抱え、北の大地でもがきながら生きる元部員たちは、引き寄せられていく―。彼女たちの“幸せ”はどこにあるのか?

(BOOKデータベースより引用)

同じ高校で青春時代をともに過ごした清美、桃子、美菜恵、直子、順子。それぞれが恋に仕事に行き詰まり感を覚えていたときに飛び込んできた、不倫の果てに妊娠し駆け落ちした順子の話。「なんて馬鹿なことを」「私はそんな下手なことはしない」と思いつつ、順子の本心を確かめようとする彼女たちは、否応なく自分自身と向き合うことになります。

「あの子より自分の方がマシ」と、誰かと比べて自分を肯定したくなる女子を、優しく導いてくれる物語。タイトルの『蛇行する月』が表すのは、まさに"右へ左へ揺れ動く女性"そのものではないでしょうか。本書を貫くテーマは"幸せ"。「何を手に入れたら幸せと思えるのか?」悩める女性にぜひ読んで欲しい一冊です。


第5位 ワン・モア

ワン・モア

ワン・モア

出版社角川書店

出版年月2011年11月

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(あらすじ)
月明かりの晩、よるべなさだけを持ち寄って肌をあわせる男と女。死の淵の風景から立ちあがる、生の確かなきらめき。つまずいても傷ついても、人生は何度でもやり直せる、きっと―。

(角川書店ホームページより引用)

医療を志す、高校時代からの友人、鈴音、美和、八木。彼らを中心に、取り巻く人間模様を連作短編で綴った作品です。父から引き継いだ個人病院を一人で切り盛りする医師・鈴音に、重い病が発覚する第2話『ワンダフル・ライフ』。離婚した元夫に、人生の最期の伴走者になってほしいと鈴音が懇願する場面。「ほんの少しでいいから、一緒に過ごしてくれないだろうか。」ーー静かにお互いを想い合う二人の心情が切なく、涙がこぼれます。

箸休めのような第3話、『おでん』。鈴音の病院をかかりつけ医とする、"彼女いない歴32年"のレンタルビデオ店長・亮太が主人公。亮太が思いを寄せるアルバイトの女の子との失恋物語。恋愛の残酷さ、不条理さを大いに味わされた亮太ですが、不思議と悲愴感のない作品。「こういうこと、現実にあるよなあ」としみじみ思えたり。鈴音と美和の生きる世界に厚みを持たせてくれる話を挟み込む、憎い構成です。


第6位 氷平線

氷平線

氷平線

出版社文藝春秋

出版年月2007年11月

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(あらすじ)
オール讀物新人賞受賞の実力派が、満を持して刊行する第一作品集。読みどころはふたつ。ひとつは、北海道の道東を舞台とし、普通の田舎町とは一味違う渇いた閉塞感を見事に描いていること。もうひとつは、北の大地の生活感あふれる性を描いていること。跡継ぎを作る重圧、ムラの男に身体を売って生活する女性、フィリピンから嫁として買われた少女、牧草の上での性行為など、『楢山節考』を髣髴させるような、陰々とした中にもある種の明るさと諦念が漂う北の大地の現実が活写されます。個性あふれるデビュー作。

(文藝春秋社ホームページより引用)

まず一番に『氷平線』という美しいタイトルに心惹かれます。大地でもなく海でもない、氷の果ての世界とは――。

舞台はオホーツク地方の小都市。故郷を捨て上京した男と、恵まれない環境ゆえ地べたを這うように地元で生きざるを得ない女が思いを寄せ合うも、結局人生を共にすることは叶わない、切ないストーリー。

ですがただの甘悲しい恋愛物語で終わらないのが桜木作品。実家が火事になり両親が死んだことで男の心に生まれた感情とはーー。わずか数十ページの短編で人間の愛も欲も心の闇も合わせ描く手腕に、とても初の作品とは思えない完成度の高さに驚かされます。


第7位 無垢の領域

無垢の領域

無垢の領域

出版社新潮社

出版年月2016年2月

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(あらすじ)
道東釧路で図書館長を務める林原を頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道の天才だった。野心的な書道家秋津は、養護教諭の妻伶子に家計と母の介護を依存していた。彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と伶子の関係が深まり……無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。

(新潮社ホームページより引用)

一見穏やかに寄り添う中年夫婦の、お互いの内心がどんなものであるか。一緒にいても孤独であり、認め合っているのに満たされない、という夫婦の暗部をこれでもかと突き付けてくる本書。それだけでも既にミステリーですが、秋津が介護する痴呆の母が、瞬間正気に戻る様子も肌が粟立つような気味悪さ…。もはやホラー小説と言っても過言ではないかもしれません。

書道家としての野心を隠し切れず燻っていた秋津が、天賦の才を持つ純香に抱いた複雑な感情とは。また、秋津の妻の寂莫とした荒野のような心に忍び込む林原の存在…。人間がいかに危うく脆い生き物であるか思い知らされる場面も多々あります。

序盤から重く暗い印象の話ですが、終盤には「え?」「嘘でしょう!」とあっと驚く展開に。純香を巡る思いもよらない結末にしばらくは呆然としてしまうことでしょう。どの登場人物も回答のない問いを持ち続けています。まるで著者に「あなたならどうする?」と問いかけられているよう。また"書道"がミステリの鍵を握るという、他に類を見ない桜木紫乃ならではのサスペンス小説です。


第8位 硝子の葦

硝子の葦

硝子の葦

出版社新潮社

出版年月2010年9月

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(あらすじ)
道東・釧路で『ホテルローヤル』を営む幸田喜一郎が交通事故で意識不明の重体となった。年の離れた夫を看病する妻・節子の平穏な日常にも亀裂が入り、闇が溢れ出す――。彼女が愛人関係にある澤木とともに、家出した夫の一人娘を探し始めると、次々と謎に直面する。短歌仲間の家庭に潜む秘密、その娘の誘拐事件、長らく夫の愛人だった母の失踪……。驚愕の結末を迎える傑作ミステリー

(新潮社ホームページより引用)

母の愛人だった男と結婚した女が主人公、という何とも業の深い設定に気圧されますが、そこは桜木紫乃。淡々とした冷たい筆致で読者をスッと話に引き込んでいきます。母からの愛を受けられず虐げられて育った主人公・節子。その生い立ちにやり切れなさを感じますが、同時に底知れぬ強さ、したたかさを見せる節子に恐れつつ惹かれる読者も多いでのではないでしょうか。

節子を取り巻く人間関係を丁寧に描く序盤から一転して、短歌仲間の家庭問題に巻き込まれていく中盤以降はミステリ色が濃くなり、読者は心の準備も出来ぬまま一気にラストへ。少しネタばらしになりますが、冒頭に「節子の生家であるスナックで一人の女が焼身自殺をした」というシーンがあります。自分の手で人生を終えたのは節子だったのか、それとも…。結末はあなたの目で確かめてください。


第9位 風葬

風葬

風葬

出版社文藝春秋

出版年月2008年10月

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(あらすじ)
釧路で書道教室をひらく篠塚夏紀は、根室本線に乗って根室に向う。父親の名を知らずに育った夏紀は、自らの出生の謎を解く鍵を根室在住の元教師・沢井徳一が新聞に投稿した歌に見つけたのだ。ひとつの歌に引き寄せられた夏紀と沢井。その出会いは、オホーツクで封印されていた、いまわしい過去の扉をこじあけることになった……。「新官能派」女流作家が挑むミステリー作品。

(文藝春秋社ホームページより引用)

物語の鍵を握るのは"涙香岬(るいかみさき)"という言葉。「根室だって昔は札幌や釧路に負けない華やかさがあったんだ。」生き字引のような婆が語る、封印された国境の町の過去。新聞に投稿された一句が開くパンドラの箱の中身には何があるのか。北海道の東端に位置し、海のすぐ向こうに北方領土をのぞむ根室の裏歴史も織り込まれた壮大なスケールの物語。

タイトル、あらすじから抱くイメージをおそらく大きく超えるミステリーが読者を待っています。始めは物語の方向性が掴めぬまま読み進めると、次第に「どんな真実が待っているのか⁈」と自然にページを繰る手が早まってゆくことでしょう。悪者が悪者の顔をしているならどんなに簡単なことなのか…。戦後の混乱に翻弄された、北海道の東の果てで起きた男女の悲劇を桜木流ミステリに仕立て上げた意欲的作品です。


第10位 起終点駅(ターミナル)

起終点駅(ターミナル)

起終点駅(ターミナル)

出版社小学館

出版年月2012年4月

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(あらすじ)
鷲田完治が釧路で法律事務所を開いてから三十年が経った。国選の弁護だけを引き受ける鷲田にとって、椎名敦子三十歳の覚醒剤使用事件は、九月に入って最初の仕事だった。

(小学館HPより引用)

6編からなる短編集。表題作『起終点駅』の主人公は、裁判官という職も妻子も捨てて道東へ流れ着き弁護士となった男、鷲田完治。なぜそんな人生を選択したのか?彼の重暗い過去のくだりには思わず読み返してしまうほど衝撃を受けることでしょう。家族の縁に恵まれなかった被告人・敦子との一瞬の交流は完治に何をもたらしたのか。

実はこの作品、佐藤浩市さん主演で映画化されているのですが、原作と大きく違う部分があります。「原作は読者に色々と考えさせるラスト」、「映画版のストーリーの方が好き」など様々な声が沸き起こりました。ぜひあなたの目で小説、映画の両方をご覧になって、違いを感じてみてください。


第11位 ブルース

ブルース

ブルース

出版社文藝春秋

出版年月2014年12月

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(あらすじ)
外道を生きる孤独な男か、それとも女たちの「夢の男」か―― 釧路ノワールの傑作、誕生。 没落した社長夫人が新聞の社告の欄に見た訃報、それはかつて焦がれた六本指の少年のものだった。深い霧たちこめる北の街の「崖の下」で生まれた男が、自らの過剰を切り落とし、釧路の夜の支配者へのしあがる。男の名は影山博人。苛烈な少年時代を経て成熟していった、謎めく「彼」をめぐる八人の女たちの物語。

(BOOKデータベースより引用)

極貧の長屋生まれで家族の縁に恵まれず、日の当たらない場所で生き延びてきた6本指の男。やがて裏社会でのし上がった博人が備え持つ男気、色気にことごとく女たちが堕ちていく様は、読んでいてもゾクっとします。冷酷な様でいて、ふと温かみを感じさせる男。今も昔も、なぜ女は博人のような男に弱いのでしょうか…。

時に「官能派」と評される著者ですが、本書にも度々あるその描写はあくまでも女性目線で、恋や愛の入る余地のない関係を描くのに不可欠な要素であると感じられます。"普通"といわれる道から逸れてしまった人間同士が、お互いの隙間を埋めようと寄り添うも、結局は埋めようがないことに気付く――。哀しくも美しい、まさに"ブルース"が似合う物語です。


第12位 ホテルローヤル 

ホテルローヤル

ホテルローヤル

出版社集英社

出版年月2013年1月

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(あらすじ)
北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は“非日常”を求めてその扉を開く―。恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。ささやかな昴揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に、部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。第149回直木賞受賞作。

(Googleブックスより引用)

著者の親が経営していたラブホテルをモデルに描いた短編小説。第1話ではすでに廃墟となった「ホテルローヤル」に忍び込むカップルの物語。時は逆に流れてゆき、最終話で、釧路湿原を見渡す高台に「ホテルローヤル」を建てた男の話へと繋がる、構成の妙が光る作品となっています。

舞台がラブホテルということで官能的なストーリーを想像するかもしれませんが、残念ながら(?)桜木紫乃はそう単純なお話を描く作家ではありません。日々をただ生きるので精一杯の人々が求めるものは何か。虚しさ、やり切れなさを抱えながらも刹那の温もりを求め合う男女の物悲しさがそこはかとなく漂う、人間哀歌。

速 報

2020年冬、『ホテルローヤル』映画化決定!
監督は『全裸監督』で一躍話題となった武正晴さん、脚本はNHK朝の連ドラ『エール』を手掛けた清水友佳子さん。そして主演女優は波瑠さん!他キャストの発表も楽しみですね。

公式サイト https://www.phantom-film.com/hotelroyal 

第13位 誰もいない夜に咲く

誰もいない夜に咲く

誰もいない夜に咲く

出版社KADOKAWA

出版年月2013年1月

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(あらすじ)
親から継いだ牧場で黙々と牛の世話をする秀一は、三十歳になるまで女を抱いたことがない。そんな彼が、嫁来い運動で中国から迎え入れた花海とかよわす、言葉にならない想いとは――。(「波に咲く」)寄せては返す波のような欲望にいっとき身を任せ、どうしようもない淋しさを封じ込めようとする男と女。安らぎを切望しながら寄るべなくさまよう孤独な魂のありようを、北海道の風景に託して叙情豊かに謳いあげる。

(Googleブックスより引用)

こちらは初期の短編集『恋肌』を、文庫化にあたり一話加えて刊行された作品。各話、北海道を舞台に様々な環境に生きる男女を生々しい日常描写とともに描いています。本書に収められた短編はバリエーション豊かで、著者のストーリーテラーとしての幅の広さを感じます。北の小さな田舎町で息詰まるように暮らす夫婦から、思わぬ展開で殺人事件に加担してしまう女など、様々な登場人物たちに飽きる間もなく一気に読み終えてしまった一冊。

第6話の『絹日和』では、着物の着付けという職を通して、女が腕一つで生きていく道をシンプルに力強く書いた良作。手に職を持った女の強さに清々しさを感じます。

ドラマ化・映画化された作品まとめ

桜木紫乃さんの作品を映像化したものをまとめました。小説を読んだ人も、「まずは映像作品から観たい!」という人も、参考にしてみてください。

起終点駅
2015年11月 公開/映画
出演:佐藤浩市 本田翼 尾野真千子  他

氷の轍
2016年11月 放送/ABC創立65周年記念スペシャルドラマ
出演:柴咲コウ 沢村一樹 嶋田久作  他

硝子の葦
2015年2月 放送/WOWOWドラマ
出演:相武紗季 小澤征悦 中村ゆり  他

こちらの女流作家もオススメです

本に座る女性

桜木紫乃さんが気になった人やファンの人たちへ、こちらの女流作家さんもオススメです。

原田康子

代表作:『挽歌』『蝋涙』『海霧』


釧路出身の作家。代表作『挽歌』は、中学生の桜木紫乃さんに大きな影響を与えた一冊でもあります。現代でも不倫は社会的反響の大きな事柄ですが、今から60年前にそれをテーマとして取り上げた『挽歌』は日本中で話題となりました。

湊かなえ

代表作:『告白』『リバース』『落日』


出す小説どれもヒットを飛ばし、直木賞候補にも何度か選ばれるなど誰もが知る国民的女流作家。衝撃的な展開や意外なラストを用意する稀代のストーリーテラーで、「イヤミスの女王」との異名も。"毒親"をテーマに取り上げるなど、濃密で危機的な母子関係の描写にも定評があります。

角田光代

代表作:『対岸の彼女』『紙の月』『八日目の蝉』


自身も直木賞受賞したのちに直木賞選考委員となるなど、文学界からの評価も非常に高い角田光代さん。家族や男女の日常の機微をすくい取る物語が読者の心を強く掴みます。

黒川伊保子

代表作:『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『女の機嫌の直し方』


感性分析の第一人者。脳科学や語感分析などの視点から書かれた著書は日本中の妻や夫に大反響を巻き起こし、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。また、黒川さんは"容姿が桜木紫乃さんに似ている"ということでもネット上で話題となりました。

まとめ

冬の川

今回は北海道を舞台とした名作を数多く生み出す桜木紫乃さんをご紹介しましたが、いかがでしたか?北海道の中でも著者の生まれ故郷である釧路や道東方面が描かれることが多いのですが、小説をきっかけに、物語の地を巡る旅行に出てみるのも素敵ですよね。

本記事で紹介しきれなかった桜木紫乃さんの他作品、女刑事が奮闘する警察小説『凍原』、駆け出しの作家が母との確執などを経て物語を生み出す過程を描いた『砂上』、ストリッパーの世界を描いた『裸の華』、カルーセル麻紀さんをモデルに描いた『緋の河』など、話題の近著もぜひ読んで欲しいものばかりです。日の当たらない男と女の哀しくも愛おしい人生を、さまざまな角度から照らし出す桜木紫乃さんの今後の作品に、乞うご期待です!

otake
ライティング担当 : otake

札幌在住の40代2児の母。趣味は読書。小説からエッセイ、漫画まで何でもこいの雑食派。好きな作家は横山秀夫、誉田哲也、角田光代、篠田節子、乃南アサなど。とくに人間の本音や心の闇に迫る作品に惹かれる。テレビも好きで、笑えるバラエティで忘れた笑顔を取り戻す。一度手放した思い出の漫画たちを買い戻すことを目標に日々働く。すべての家事を終えて飲む一杯が一番の癒し。

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