• 2017/04/18

実は太宰治の遺書?累計600万部を超える小説『人間失格』を解説!

度重なる自殺未遂、派手な女性遍歴、豪遊の末の凋落、そして入水自殺。太宰治の遺書とも言われるこの暗い小説が不朽の名作と呼ばれる訳は?何故、今もなお現代人の心を惹きつけてやまないのでしょうか。昭和の文豪、太宰治の『人間失格』を小説、漫画から映画まで徹底解説します!

どこまでも暗いイメージがつきまとう…太宰治とはどんな人?

1909年(明治42年)6月19日生まれ。
自殺未遂、薬物中毒などを繰り返すも、『人間失格』『走れメロス』『津軽』『お伽草紙』など多くの作品を手掛けた。没落する華族を描いた『斜陽』はベストセラーとなり、『人間失格』とともに著者の代表作となっている。1948年、愛人・山崎富栄と入水。38歳没。

冒頭から始まる衝撃の一文(以下、ネタバレあり)

「恥の多い生涯を送って来ました。」
皆さんもこの一文を耳にした事があるのではないでしょうか。小説『人間失格』は、ある男の独白から始まります。本作品は、<はしがき>、<第一の手記>、<第二の手記>、<第三の手記>、<あとがき>という5つのパートで構成されています。

男の手記という形式で淡々と綴られていく物語はどこまでも救いようがなく、文庫で150ページ程の短いお話ながら、読後は読者の心に暗い影を落とします。

<登場人物>

●大庭葉蔵(主人公)
裕福な家庭に生まれる。幼い頃から人の心が理解できない事に悩んでいる。他人に対する極度の恐怖から、道化を演じる事でかろうじて自分を保ってきた。画家を目指すが、父親に逆らえず進学のため上京する。青年期には、その持ち前の美貌から様々な女を引き寄せ、次々と女のもとに転がり込んではヒモ同然の自堕落な生活を送る。次第に酒と薬に溺れるようになり、自殺未遂を繰り返す。

●堀木正雄
葉蔵が通っている画塾で出会った、色が浅黒く端正な顔立ちをした美青年。葉蔵は堀木から酒、煙草、淫売婦、質屋、左翼思想など様々な事を教えられ、人間への恐怖を紛らわせるために徐々に堀木との交友関係にのめりこむようになる。この時期から葉蔵の破滅的な人生が始まる。

●ツネ子
カフェで女給として働く女性。服役中の夫がおり、常に侘しさを身にまとっている。葉蔵は初めて積極的に恋心を抱くも、堀木の一言でみすぼらしい、貧乏くさい女だと気付かされるシーンも。葉蔵とともに鎌倉の海に飛び込み、心中を図る。

●シヅ子
夫と死別したシングルマザー。雑誌の記者として働きながら、5歳の娘シゲ子を育てる。葉蔵の才能を見抜き、漫画の寄稿を勧める。束の間、家族のような幸せな日々があったが、シゲ子の「本当のお父ちゃんが欲しい」という発言にショックを受け、自ら身を引く。

●ヨシ子
スタンド・バアの向かいにある煙草屋の娘。初登場時は18歳。人を疑う事を知らない天真爛漫な性格で、葉蔵に言わせると「信頼の天才」。葉蔵はヨシ子を内縁の妻とし、人間らしい生活を送っていたところで、ある悲劇が…。

『人間失格』における主人公・葉蔵の暗い魅力とは?

<はしがき>で登場する、ある3枚の写真。
1枚目は、人をムカムカさせるような薄気味悪い笑顔を浮かべた少年。
2枚目は、おそろしく美貌で、造り物のような不思議な微笑を貼りつかせた青年。
3枚目は、年齢すら分からない、何の特徴もない無表情の白髪交じりの男性が汚い部屋で火鉢に手をかざしている、見るものをぞっとさせる写真。

冒頭から、読者は不吉な予感にとらわれます。この3枚の写真は、本当に同じ人物なのか?この写真に写っている男は、今は生きているのだろうか?

主人公・大庭葉蔵は、子どもの頃から人間の営みや、幸せであること、挙句の果てには”空腹感”すら理解できない少年。人間を極度に恐れるあまり、滑稽で明るい道化の自分を演じることで、本当の臆病な自分を見破られまいとします。
しかし中学生時代、鉄棒の授業でクラスの受けを取るためにわざと尻餅を付いたところで、一人のクラスメイトに「ワザ、ワザ」と言われるのです。ワザと失敗したことを見破られたショック。完璧な仮面を、いとも簡単に剥がされてしまったという衝撃が、後々葉蔵のトラウマとしてどっしりと心に暗い根を張る事になります。

ーー引用:世の中の人間の「実生活」というものを恐怖しながら、毎夜の不眠の地獄で呻いているよりは、いっそ牢屋のほうが、楽かも知れないとさえ考えていました。

(-P53『人間失格』新潮文庫)

青年期の葉蔵は、最初こそ電車に乗れば車掌が恐ろしく、歌舞伎へ行けば案内嬢が恐ろしく、レストランでは後ろに立つ給仕のボーイが恐ろしく…という対人恐怖っぷりを発揮していたのですが、堀木と出会う事で徐々に色々な遊びを覚えていき、酒と女にのめり込むように。ツネ子やシヅ子など、様々な女のもとへ転がり込んではヒモのような生活を繰り返します。 これだけ読むと、ろくでもない男のように見えるのですが、持ち前の美貌に加え、どこか母性本能をくすぐるようなミステリアスな雰囲気が、女達達を引き寄せてしまうのでしょうか…。天真爛漫なヨシ子を除くと、どこか訳有りだったり、生への執着が薄かったりと、同類だからお互いに求め合う物があったのかもしれません。

人間、失格。落ちぶれた葉蔵と重なる太宰治の半生と最期

『人間失格』の葉蔵は、青年期にかけて徐々に派手な交友関係、「死」への願望からの自殺未遂、乱酒、モルヒネ中毒と堕落した生活に溺れていきます。人気者だった少年時代の面影はどこへやら、周りの人間から蔑まれ、唯一の友人だった堀木からも疎まれるようになった葉蔵。療養のため入れられた施設は、サナトリウム(療養所)とばかり思っていたところ、実は精神に異常をきたした人が行く病院だったのです。

ーー「人間、失格。」

27歳、白髪混じりになった葉蔵は、自らこのレッテルを貼り物語は幕を下ろします。これが<はしがき>の3枚目の写真に繋がった時の、何とも言えぬ絶望感と寂寥感…。読了後の後味の悪さと言ったら、数多くある古典の中でも随一かもしれません。

さて、この『人間失格』が連載時から話題になり、今現在も多くの人に読み継がれているのは、主人公・葉蔵の半生と作者・太宰治の実生活との奇妙な符合が少なからず関係しているようです。というのも太宰治は、もつれる様々な女性関係、乱れた私生活、バーの女給と鎌倉の海で自殺未遂、パビナール中毒で病院に入院…と、まるで葉蔵そのもの!そして『人間失格』の連載最終回掲載直前に、愛人の山崎富栄と入水自殺をしたのです。あまりにも葉蔵と太宰治の半生が一致することから、巷で『人間失格』は太宰治の「遺書」ではないかと言われています。今となっては知る術もありませんが、この作品が太宰治の生き様を色濃く反映していることは確実です。

現代の若者達に今もなお人気の理由は"普遍性"

『人間失格』は、一言で言うと一人の男が落ちぶれて廃人同然の状態になるお話です。
勿論そこに到るまでに、人には言えない葛藤や紆余曲折がある訳ですが、もがけばもがくほどどこまでも暗い深淵に引きずり込まれるような感覚は、そのあまりの救いようの無さから、思春期に読んではいけない、精神的に参っている時に読むと危険と言われる小説です。ちょうど「暗い日曜日」という音楽を聴いて、ヨーロッパで自殺者が続出したような感じでしょうか。それぐらい、人を引きずりこむような吸引力がある作品だと思います。

それでも、『人間失格』は何故今もなお人々の心を惹きつけてやまないのでしょうか?幼少期の葉蔵が、滑稽な自分を演じることで真の姿をカモフラージュさせたことは、他人に認められたい、周りに気に入られたいことの裏返しです。人の心が理解できない、接し方が分からないまま大人になってしまった葉蔵は、他人と上手くコミュニケーションを取る事が苦手な現代の若者達の共感を呼ぶのかもしれませんね。

映画や漫画にも注目!!小説、映画、漫画との違いは?

小説は累計600万部を超える不朽の名作。原作はハードルが高い!という方は、映画や漫画から入ってみるのはいかがでしょうか?

<映画>
公開日:2010年2月20日
監督:荒戸源次郎
キャスト:生田斗真、伊勢谷友介、寺島しのぶ、石原さとみ、小池栄子
配給:角川映画
DVD発売日:2010年8月4日 ※レンタルも同時リリース

ジャニーズの生田斗真さん×伊勢谷友介さん出演というと、もうお二方のファンにとってはそれだけで垂涎物かもしれません。また、周りを固める女優陣の、良い意味でのアクの強さもありキャストだけでも見ごたえがあります。入門としてはとっつきやすいですが、原作のような陰鬱さは少ないので、原作と映画あわせて楽しむ事をお勧めします。

<漫画>
著者名:漫画:古屋兎丸 原作:太宰治
シリーズ:BUNCH COMICS
(第1巻)
発売日:2009年6月9日
ISBN:4107714861
(第2巻)
発売日:2010年2月9日
ISBN:4107715426
(第3巻)
発売日:2011年6月9日
ISBN:410771621X

『人間失格』は他にも漫画化されていますが、個人的にお勧めなのが古屋兎丸版。
舞台を現代に置き換えたお話なのですが、原作に忠実でありながらも、ネットサーフィンをしている男性が大庭葉蔵のサイトを見つけるという、うまく現代に馴染んだ設定でとっつきやすいです。端正な顔に仮面のような笑顔を浮かべた葉蔵の薄気味悪さといったら…!古屋さんの圧倒的な画力のおかげもあり、読めば読むほど嫌な気分になるも、ページを繰る手が止まりません。全3巻です。

ーー太宰治といえば、古典全般の印象と同じで「ハードルが高い」と思っていましたが、これがまたあっという間にのめりこんでしまう面白さです。(面白いと言ったら語弊があるでしょうか…)芥川賞受賞作家であり芸人でもある又吉直樹さんも、大の太宰好きとして知られていますが、この『人間失格』にはどこか世間と感覚がずれた人や、違和感を感じる人には、「何で自分の事をこんなに的確に表現しているんだろう」という驚きがあると思います。読んだ後に元気が出るとは言えません、むしろ確実に気が滅入ります。…が、この本に出会う前と後では確実に人生観が変わります。

もったいない本舗 30代スタッフN)感想

まとめ

将来への漠然とした不安や他人との関係性、「コミュ障」というネットスラングが登場するほど、他人とのコミュニケーションが苦手な現代人が多い昨今。誰にも相談できないまま、葉蔵のように自ら別のキャラクターを演じている人もいるかもしれません。もしかするとその解決の糸口が『人間失格』で見つかるかも?ただ、前述した通りくれぐれも読む「タイミング」にはご注意を…。

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