- 2022/09/28
『チ。―地球の運動について―』が面白い!あらすじと謎を徹底考察
漫画『チ。―地球の運動について―』は、15世紀ヨーロッパを舞台に当時異端とみなされていた<地動説>を命をかけて追究した人々の物語。なぜ彼らは自らの命を投げうってまで信念を貫いたのか?心打たれる名言の宝庫である本作の魅力と、最終巻に隠された謎を徹底考察します!
『チ。―地球の運動について―』ってどんな漫画?
<地動説>や<天動説>は、きっと皆さんも歴史の授業で習いましたよね。でも、当時の常識とされていた天動説が、やがて地動説に置き換わったその背景について考えたことはありますか?
今回ご紹介する漫画『チ。―地球の運動について―』は、まさにその背景を極限まで掘り下げた作品で、これがまた心震えるほど面白いのです!本作は魚豊(うおと)さんによる漫画で、2020年より「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていました。
2021年には「マンガ大賞」第2位、そして2022年には「手塚治虫文化賞」マンガ大賞を受賞。単行本は2022年6月30日発売の8巻で完結しましたが、なんとアニメ化も決定しています!『チ。―地球の運動について―』は、異色の歴史漫画として今最も注目されている漫画なんです。
『チ。ー地球の運動についてー』
— 魚豊 「チ。地球の運動について」6/30日最終巻発売 (@uotouoto) June 30, 2022
最終8巻、本日発売です。
ご愛読、有難うございました。
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舞台は15世紀ヨーロッパ「P国」。当時は「C教」という宗教が生活の中心となっていて、「C教」の教えに反するものは"異端思想"として拷問を受けたり、火あぶりにされ処刑されたりと迫害を受けていました。神学を志す12歳の神童・ラファウは、合理性を第一とし世の中は「チョロい」と思っていましたが、ある日危険な思想を持つ男・フベルトに出会います。それは当時異端とされていた<地動説>。やがてラファウは宇宙の法則の美しさに魅入られ、<地動説>の研究にのめりこむようになるのですが…。
※「P国」はポーランド、「C教」はキリスト教と思われる。
<地動説vs.天動説>地動説はなぜ異端だったのか
本作のテーマとなっている<地動説>ですが、15世紀当時のヨーロッパでは<天動説>が当たり前でした。では2つの違いについて簡単におさらいしておきましょう!
天動説 | 地動説 | |
---|---|---|
提唱者 | プトレマイオス(ギリシャ) | コペルニクス(ポーランド) |
時期 | 2世紀 | 16世紀 |
内容 | 地球の周りを太陽が回っている | 太陽の周りを地球を含む惑星が回っている |
主張 | つまり地球が宇宙の中心 | つまり太陽が宇宙の中心 |
天動説 |
---|
提唱者 |
プトレマイオス(ギリシャ) |
時期 |
2世紀 |
内容 |
地球の周りを太陽が回っている |
主張 |
つまり地球が宇宙の中心 |
地動説 |
---|
提唱者 |
コペルニクス(ポーランド) |
時期 |
16世紀 |
内容 |
太陽の周りを地球を含む惑星が回っている |
主張 |
つまり太陽が宇宙の中心 |
このように2世紀に<天動説>が確立し、「神がその姿を写した人間が住む地球こそが宇宙の中心なのだ」という教会の教えが当時の真理でした。でも16世紀には、聖職者でもあり天文学者でもあったコペルニクスが<地動説>を発表。コペルニクスは30年も自説の発表をためらい、ようやく死の直前に発表したと言います。
『チ。―地球の運動について―』では、<地動説>の研究材料を異端審問官に発見され、拷問や火あぶりという厳しい迫害を受けるシーンがたびたび描かれています。宗教という後ろ盾を持つ<天動説>を否定することは、教会の権威そのものを否定するということに繋がるんですね。
本作では、自らの命をかけてまで宇宙の真理を追い求めた人々の情熱が描かれています。今や周知の事実となった<地動説>も、認められるまでに300年という膨大な年月が必要でした。彼らが積み重ねてきた揺るぎない信念が今の世界を形作っています。そんな過酷な時代の一部分を、『チ。―地球の運動について―』で覗いてみましょう!
主要キャラクター紹介&相関図【一部ネタバレあり】
ラファウ | 本作に登場する主人公のひとり。若干12歳で大学に合格する神童。頭が良く、常に物事を合理的に考える少年。天体観測を趣味としているが、養父のポトツキに止められる。大学では神学を専攻する予定だったが、異端思想のフベルトと出会い、<地動説>の美しさに魅了されるようになる。 | |
---|---|---|
オクジー | 代理で決闘を行う「代闘士」。大柄な体格で力があるが、文字を読むことは苦手である。人より優れた視力を持つが、空を見ることを恐れている。現世では何も期待しておらず、早く天国に生きたいと願っている。基本的にネガティブ。 | |
バデーニ | 右目に眼帯をした修道士。並外れた知識量、計算力など非常に優れた知力を持っており、純粋に「知」を追い求めたことにより眼を焼かれて田舎に左遷となった。基本的に傲慢な性格で、知識を他人と共有することに興味がない。 | |
ヨレンタ | 天文学研究の助手としてピャスト伯に雇われている。少女ながら洞察力に優れ、施設の中でも指折りの頭脳を持つが、「女性だから」という理由で満足に研究をさせてもらえず悲しい思いをしている。 | |
ドゥラカ | 幼い頃に両親を亡くしたポニーテールの少女。心から不安が消えるまで「金を稼がなければいけない」という思いにとらわれている。ことあるごとに生産性を重視し、<地動説>の書籍が世の中に出版されれば儲けられそうだと気付く。 | |
シュミット | 異端解放戦線の隊長。幼い頃にC教の派閥争いに巻き込まれたという過去を持つ。豪快で一本気な性格であり、思想は違えど目的が重なったドゥラカを組織長のもとに連れて行くことに。 | |
クラボフスキ | バデーニが左遷された田舎の村で司祭をしている。穏やかな性格であり、村人たちとも良い関係を築いている。都会から左遷されてきたバデーニをいつも気にかけている。 | |
アルベルト | パン屋で働く青年。店主からはその賢さから大学へ行くよう勧められるが、昔のある出来事がトラウマとなり、好奇心の赴くままに研究し、「知」を追究することを「害悪」だと思っている。実は後世に繋がる非常に重要な人物。 | |
フベルト | 異端とされる<地動説>を研究する人物。異端者として監禁されていたが、改心したと嘘をつき出所した。そのときに出会ったラファウとともに天体観測を続けていたが、ノヴァクに目を付けられ火あぶりにされる。自らの研究資料をラファウに引き継いだ。 | |
ピャスト伯 | ヨレンタの雇い主。完璧な<天動説>の証明に人生を捧げている老人。自らを否定されようとも真理を希求するスタンスである。女性差別問題に対して理解を持っている。 |
<異端審問官>
ノヴァク | 元傭兵の異端審問官。常に気だるげでひょうきんな性格であるが、異端者は徹底的に拷問するなど厳しい態度で仕事に臨む。娘のヨレンタを可愛がっており、時折父としての一面も垣間見せる。 | |
---|---|---|
新人異端審問官A | 助任司祭アントニの部下である新人の異端審問官。ノヴァクの後輩。拷問にかけられるヨレンタを不憫に思い、正義感から彼女を逃す。 | |
新人異端審問官B | 助任司祭アントニの部下である新人の異端審問官。ノヴァクの後輩。同期の審問官の身に起こった出来事と、何もできなかった自分に罪の意識を持っている。 |
ついに完結!最終巻に隠された謎を考察【ネタバレあり】
『チ。―地球の運動について―』の最終巻8巻にはさまざまな謎が隠されています。一度読んだだけでは理解できない衝撃の展開に驚いた人も多いのでは?そこで、「最終巻がどういう意味かわからない!」という人のために私的考察を載せておきます。もちろんあらゆる解釈がありますので、「こういう見方もあるのか」と参考までに目を通していただけると幸いです。
以下一部ネタバレ注意!最終巻未読の方は読み終えてからご確認下さい!
謎① | 8巻で再登場しているラファウは少年ラファウと同一人物? |
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8巻で一番驚いたのは、なんと1巻で登場したラファウ君が再登場していることです。しかも少年の姿ではなく青年として登場しています。「え、ラファウって自死したよね?」と戸惑うばかり。まさかあれは見せかけだけで実は生き延びてた?と最初は思いましたが、その後ノヴァクによって火にかけられていますから、さすがにそれはないでしょう。
となると、少年ラファウ君と青年ラファウ君は別人で、平行世界での出来事(つまり"if"の世界)と考えられます。では、どうしてそんな設定になっているのか?8巻で青年ラファウはアルベルトの父親を「知識への欲求」から殺害しますが、一方1巻ではノヴァクが「神への信仰」から殺害しているシーンがあり、これが<知識vs.信仰>の対比となっているのではないでしょうか。またラファウと同じ姿である意味は、おそらく人間は自分の信念のためならば簡単に人の道を踏み外すという意味合いも兼ねているのではないかと思います。
謎② | 突然登場してきたアルベルトって何者? |
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「7巻の表紙にいる青年は誰?」リアルタイムで単行本を読まれていた皆さんはきっとそう思ったことでしょう。そう、7巻にはこの青年は一切出て来ないのですよね(笑)これが8巻になってようやく登場します。(8巻が出るまでやきもきしたのは、きっと私だけではないはず)このアルベルトというパン屋で働く青年が、以後の史実と繋がり世界を形作っていく人物なのです!
アルベルトのフルネームは、アルベルト・ブルゼフスキ。このアルベルトは1400年代のポーランドに実在した人物で、主に天文学、数学を教える大学教師でした。そしてその生徒の中には、ニコラウス・コペルニクスもいました。そう、コペルニクス!それまでの<天動説>を180度ひっくり返す<地動説>を発表したコペルニクスです。発想を根本的に変えるという比喩表現"コペルニクス的転回"として現代でも広く知られていますね。つまりアルベルトは、コペルニクスの師にあたる超重要人物です。
謎③ | 告解室にいた司祭の正体は? |
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アルベルトが告解室に入ったとき、司祭が自分の過去を語り始めるシーンがあります。「昔友人の命を見捨てた」「彼は取り返しのつかないことをして死んだ」と語っています。その内容からこの人物は、おそらく少女時代のヨレンタを逃したC教の新人異端審問官の同期と思われます。(5巻参照)
バデーニとオクジーと親しくしていたことで、異端の疑いをかけられていたヨレンタは、上司アント二の指示により拷問にかけられることになるのですが、正義感の強い新人異端審問官のひとりはヨレンタを逃がすのです。そしてその代わりに彼は火あぶりになり処刑されてしまいます。告解室の司祭は、きっと自分が見捨てた友人のことをずっと胸に抱えながら生きていくのでしょう。
謎④ | 8巻の真っ黒な表紙デザインの意味とは? |
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1〜7巻までの表紙は各キャラクターが描かれていたものの、最終巻8巻では真っ黒な表紙となっています。これは何を意味しているのでしょうか?よく見てみると、1〜7巻の人物、ラファウも、バデーニも、ヨレンタも、ノヴァクでさえも天を眺めていますよね。5巻でオクジーが最後に「綺麗だ。」と言い残した満天の星空が、8巻の表紙で描かれています。何だか感慨深い気持ちにさせられますね。
ちなみにタイトル「チ。」のデザインも、地球が太陽の周りを公転しているようなデザインとなっていて、こういう小さな仕掛けを探すのも楽しい漫画です。最終巻を読み終えた後は、ぜひ表紙カバーを外してみてください。知的好奇心の赴くままに研究すること、そしてなによりも「?」という疑問を持つことが、まさに知識の「チ」に繋がるのですね!
<名言集>命がけだからこそ真実味がある名言の数々
『チ。―地球の運動について―』には、数々の名言が登場します。漫画であるにもかかわらず、絵よりも言葉のほうが本作の魅力を雄弁に物語っているのです。命をかけて真理を追い求めるからこそ真実味がある言葉は、きっと生きづらい現代を生きる私たちの心に響くものがあるのではないでしょうか。それでは、本作に登場する名言を少しだけご紹介します!
硬貨を捧げれば、
パンを得られる。
税を捧げれば、
権利を得られる。
労働を捧げれば、
報酬を得られる。
なら一体何を捧げれば、
この世の全てを知れる―?
1巻冒頭で投げかけられたこの質問は、実は最終巻のあるシーンでも再度問いかけられます。この世のすべての「知」を手に入れるための対価は何なのでしょうか。全巻読破したとき、読者の皆さんはこの回答を手に入れることができましたか?
あんな巨大な矢が、
一つの発想で、
こんなに合理的に、
動いてしまったら、
この説を、美しいと、
思ってしまうッ!!
神童と呼ばれたラファウは、常に合理性の中に美しさを求めていました。異端思想のフベルトを通じて知ることになった<地動説>を自ら検証したラファウが、「危険な思想」だと知りながらもその魅力の虜になってしまった瞬間です。
この世は、最低と言うには
魅力的すぎる。
当時C教が最終的に掲げていたのは、汚れた地球を抜け出し死後に天国へ行くこと。でもヨレンタは罪深い人間たちや荒れ狂う自然にも何故だか美しさを感じていたのです。それはおそらく地球の運動に関係するものだと、直感していました。
今ある規範を疑えないなら、
それも獣と大して変わらない。
ずっとネガティブ思考で流されるがままだったオクジーの大きな成長が見え隠れする言葉です。「知」への第一歩は「疑問を持つこと」。何の疑いもなく規範に従うことは、ただの獣であり人間としての思考を放棄していることに気付いたのですね。
迷って。
きっと迷いの中に倫理がある。
ヨレンタは、これからの歴史を作る若い世代ドゥラカに、必死に真実を追い求めることの感動を伝えようとします。ドゥラカはお金を稼ぐことが人生の目的でしたが、ヨレンタの血の通った言葉に少しずつ頑な心を動かされていきます。
人を異端と呼び、
拷問し、殺すなら、
その理由に正当性があるのか
説明できるくらいは調べろ。
行動に責任を持て。
まぁ全巻読んだ人なら、「お前が言うな」という気がしないでもないのですが(笑)しかしこの時代に、果たしてどれだけの人が主張の「正当性」について調べたのでしょうか。他人に迎合するのは一番楽なことです。当のノヴァクはたまったものではないですが。
今、たまたまここに
生きた全員は、
たとえ殺し合う程憎んでも、
同じ時代を作った仲間な気がする。
青年ラファウのこの言葉にはさまざまな意味が込められているような気がします。異端者も、弾圧者も、皆主役です。ひとりでも欠けていればやはりこの時代は存在し得なかった。後世から見れば、すべてひっくるめてひとつの時代を形作った人たちなのです。
貴方とは違ったやり方で、
疑いながら進んで。
信じながら戻って。
美しさに、煌きに、
せまり詰めてみせます。
アルベルトは、後世に名を遺すことになる人物です。「知ること」には「血」が伴うのが当たり前とされていた時代に、別のやり方で、宇宙の真理に近づこうという決意が垣間見える言葉ですよね。史実でアルベルトはコペルニクスの先生として知られています。
アニメ化決定!制作会社は?放送日はいつ?
「チ。ー地球の運動についてー」
— 魚豊 「チ。地球の運動について」6/30日最終巻発売 (@uotouoto) June 27, 2022
アニメ化決定しました!
制作はマッドハウスさんです!!
嬉し!!!!!
1巻→https://t.co/A5wEAYFbO3
最終巻→https://t.co/nvY9piaC8f https://t.co/i2aeo5TZbE pic.twitter.com/80rNt8lWrR
そしてファンとして大変嬉しいことに、『チ。―地球の運動について―』のアニメ化が決定しました!制作は『サマーウォーズ』『DEATH NOTE』『HUNTER×HUNTER』などを手がけるアニメ制作会社マッドハウス。
<地動説>がテーマという、ともすれば地味になりそうなアニメをマッドハウスはどう料理してくれるのか、また新規ファンを開拓するためにどれだけ大々的な広告を打つのか気になるところですね!
今のところ、放送スケジュールやキャスト情報などは未定ですが、原作漫画は既に8巻で完結済みなので、2023年中には放送されるのではないかと予想しています。公式から正式な発表があり次第、また更新させていただきます。
まとめ
さて、ここまで漫画『チ。―地球の運動について―』の作品概要と考察について掘り下げてきましたが、いかがでしたか?最終話を読み終えたら、きっと他の人と感想を言い合いたくなること必至です!原作未読の方は、個人的には全8冊大人買いを推奨したいところですが(笑)「まずは試しに少しだけ読んでみたい」という方は、ぜひ「ビッグコミックBROS.NET」で無料試し読みをしてみて下さいね。
「チ」とは、作者によると"大地のチ、血液のチ、知識のチ"という3つの意味が込められているそうです。宇宙の神秘と人類の叡智に感銘を受け、真理のために犠牲になった人々に思いを馳せ、そして知的好奇心をこれでもかというほど刺激する『チ。―地球の運動について―』を、ぜひ思う存分ご堪能下さい!
ライティング担当 : sakura札幌在住30代。本や少年コミックを読むことが大好きで、家事の合間にハイボールを飲みながら読書をするのが至福のとき。小説はイヤミス、ホラー、児童文学まで好きなジャンルは多岐にわたり、ラストですべてがひっくり返される「大どんでん返し」本を好んで読む。子どもの頃からホラー映画が好きで、最近は『死霊館』や『インシディアス』など心の奥底まで恐怖心をかきたてられるようなジェームズ・ワン監督作品に魅了されている。 |