- 2021/04/15
- 2021/03/29
【本屋大賞2021】大賞受賞作は?ノミネート作品も一挙紹介!
<2021年本屋大賞>決定!今年、見事「大賞」を受賞したのはどの作品?そもそも本屋大賞ってどんな賞なの?古本店『もったいない本舗』の読書好きスタッフが、全ノミネート10作品を実際に読んでみた感想を余すところなくご紹介いたします。気になった作品はぜひ読んでみて!
本屋大賞ってどんな賞?
2021年4月14日、2021年本屋大賞の「大賞」作品が発表されました!毎年この時期が来ると、古本店『もったいない本舗』のスタッフsakuraもそわそわしてしまいます。書店員のみならず、読書好きにとっては気になる文学賞のひとつである<本屋大賞>ですが、具体的にどのような賞なのでしょうか?
2020年12月1日(火) | 一次投票スタート。一人3作品を選び投票する。 |
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2021年1月21日(木) | ノミネート作品発表&二次投票スタート。 ノミネートされた10作品をすべて読み、ベスト3を投票する。 |
2021年4月14日(水) | 大賞作品発表!二次投票を集計して決定する。 |
「芥川賞」や「直木賞」はどうもとっつきづらくて…という人でも、「本屋大賞」受賞作品なら気軽に読める!という人も多いはずです。作家でも専門家でもない書店員は、いわば本が大好きな一般読者とほぼ同じ視点で本をおすすめしてくれるからです。では、今年の大賞作品と、ほかにどんな本がノミネートされているのか早速チェックしてみましょう!
<決定版>2021年本屋大賞受賞作とノミネート作品は?
それではまず、2021年4月14日に発表された<2021年本屋大賞>大賞受賞作と、ノミネートされた作品を見ていきましょう!ジャニーズの加藤シゲアキさんの『オルタネート』のほか、芥川賞を受賞した宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』など話題作もノミネートされていますね!読書好きの皆さん、読んだことのある作品はありましたか?
2021年本屋大賞(第18回) |
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大賞 | 『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ) |
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2位 | 『お探し物は図書室まで』(青山美智子) |
3位 | 『犬がいた季節』(伊吹有喜) |
4位 | 『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎) |
5位 | 『自転しながら公転する』(山本文緒) |
6位 | 『八月の銀の雪』(伊与原新) |
7位 | 『滅びの前のシャングリラ』(凪良ゆう) |
8位 | 『オルタネート』(加藤シゲアキ) |
9位 | 『推し、燃ゆ』(宇佐見りん) |
10位 | 『この本を盗む者は』(深緑野分) |
<BOOKレビュー>候補作のあらすじと感想
何かと話題作も多い2021年本屋大賞のノミネート作品ですが、実際にスタッフsakuraも10冊すべて読んでみました。ミステリー系から青春系までどれも甲乙つけがたい力作揃いで、これは全国書店員の皆さんも大賞を選ぶのが難しかったのでは…!それでは早速それぞれの作品がどのような内容なのか見ていきましょう。(ネタバレはしていないので安心して下さいね。)
大賞 『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ)
大賞受賞おめでとうございます!!もう涙腺が崩壊してしまうほど号泣した作品です。虐待、ネグレクト、DV…現代の社会問題が浮き彫りになりものすごく苦しくて辛いのに、長い長いトンネルから一筋の光が差してくるような希望の見える読後感。スタッフsakuraにとっては、人生におけるマイベストに入れたいほどお気に入りの作品となりました。本作の主人公・貴瑚は東京から大分の海辺の田舎町に移住してきますが、若い女性が身ひとつで田舎に引越しというのはどうしても目立ってしまい、悪い噂を立てられてしまいます。そこで出会ったのは、身体中あざだらけで明らかに虐待をされていると思われる少年。整った顔立ちをした声を出せない少年はどんな家庭環境なのか?またなぜ貴瑚は田舎町に移住してきたのか?現在と過去のパートが交互に語られ、明らかになる真実は慟哭するほどに哀しく痛々しいです。他の個体には気づかれない高い周波数で鳴くクジラ。52ヘルツの声なき声に気付ける人間でありたい、と心から思いました。
2位 『お探し物は図書室まで』(青山美智子)
仕事が辛いと思っている人へ。新しい一歩を踏み出したいけど勇気が出ない人へ。そんな悩みを抱えるすべての人の心にストレートに響く連作短編集です。コミュニティハウスの図書室に勤める司書・小町さんのもとにはあらゆる悩みを抱えた人がやってきます。どうしても職場に馴染むことのできない婦人服売り場の女性。アンティークショップを夢見る家具メーカーの男性。キャリアと育児の間で悩む元雑誌編集者の女性…など。彼らに小町さんは「何をお探し?」と声をかけます。そして希望の本と一緒に、現状を打破する一歩となるような本を一冊貸してくれるのです。順風満帆な人生を送っている人には響かないかもしれません。でも少しでも仕事に不安がある、どうしても新たな一歩を踏み出せないという読者には必ず心に刺さるものがあると思います。ちょっと意識を変えるだけで、人生は思いもよらぬ良い方向へ向かうことができる。ほろりと泣けて、仕事に行き詰まったときの羅針盤になるような素敵な作品でした!
3位 『犬がいた季節』(伊吹有喜)
本作を読んだ誰もが、自らの高校時代を思い出すのではないでしょうか。甘酸っぱさや切なさ、中にはきっと長いこと心に閉じ込めていた辛い記憶が呼び起こされる人もいるかもしれません。ある高校で飼われることになった捨て犬コーシロー。ふわふわで真っ白な子犬はたちまち校内の人気者となります。コーシローの視点から描かれるエピソードと、一日一日を全力で生きていた生徒たちのエピソードが交互に描かれ、昭和から平成、平成から令和と移ろいゆく時代を、ギュッと胸が締め付けられるような気持ちで読みました。恋愛、友情、進路。当時はそれが世界のすべてのように感じていました。大人に憧れ、背伸びをして化粧をして、伝えたい想いを胸に秘めたまま卒業していく。その時代に流行った音楽や流行なども次々と出てきて、当時を懐かしく思い出しました。卒業式の季節に読むのにぴったりの青春小説です。読了後には、ぜひカバー下をめくってみて下さい。嬉しいサプライズがありますよ!
4位 『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎)
今や知らない人はいないほど有名になった伊坂幸太郎さん。デビュー20周年の集大成となった本作『逆ソクラテス』は、とにかく痛快かつ爽快!最高に読後感の良い短編集です。主人公となるのは小学生たち。お金持ちの子と貧乏な子。運動のできる子とそうでない子。両親のいる子と片親の子。子どもたちのライン引きは実にシビアです。小学生にとって「学校」や「先生」は絶対的な存在。でも、先生だって人間ですし中には先入観の塊のような人だっています。それを子どもたちならではの視点で、ふりだしに戻し、先入観をひっくり返すような展開がとても小気味良い!「僕は、そうは、思わない」というパワーワード、使ってみたいと思いました(笑)大人になると、どうしても打算的な思考が働きます。相手に迎合するほうが反発するよりも格段に楽だし、見て見ぬふりをするほうが面倒事に巻き込まれない…と考えがちです。そんな大人たちこそ、本作を読んで一度童心に返ることが必要なのかもしれませんね。
5位 『自転しながら公転する』(山本文緒)
アラサー女性の皆さん、絶対読んで!!<共感度100%>小説と話題になっている理由が良くわかります。主人公の都と同年代のsakuraは、自分と重なる部分がありすぎて心をえぐられるような気持ちでした。都は、30代で実家暮らし。茨城のアウトレットモールで契約社員として働いています。腹を割って話をできる友人はいるものの、恋愛はまるでうまくいきません。恋人の貫一は中卒。優しくしっかりした相手だとわかってはいても、世間体や先入観にがんじがらめにされている都の気持ちが痛いほど理解できました。未婚、親の介護、非正規のワーキングプアと、現代のアラサーをリアルに描いた本作がここまで共感を得られるということは、実際に世の中には都のような女性たちがたくさんいるということでしょう。必死にもがきながらも、一歩また一歩と着実に歩を進めていく姿は、恋愛も仕事もうまくいかない、将来に不安を持つすべての女性の希望になるはずです。「少しくらい不幸でいい。」ストンと腑に落ちる言葉でした。
6位 『八月の銀の雪』(伊与原新)
第164回直木賞にもノミネートされた本作『八月の銀の雪』。前評判で「理系作家」ということを耳にしていたので、最初はなかなか食指が動きませんでしたが一度読み始めたら瞬く間にこの優しい世界に引き込まれました。就活連敗中の理系大学生がベトナム人のコンビニ店員に出会う表題作をはじめ、子育てに自信をなくしてしまったシングルマザーが深海で泳ぐクジラの生態を知る「海へ還る日」、失恋した女性が珪藻アートに出会う「玻璃を拾う」などさまざまな問題を抱えた登場人物たちが科学と出会うことで解決への糸口を見つけていく短編集です。はるか昔から存在する自然や神秘は、私たちの小さな悩みなんて瑣末に感じるほどに広大で、日々の生活に疲れた現代人の心をそっと癒してくれます。登場人物と自分を重ね合わせ、新たな第一歩を踏み出す手助けをしてくれる前向きな作品でした。
7位 『滅びの前のシャングリラ』(凪良ゆう)
2020年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの新作は『滅びの前のシャングリラ』。小惑星の衝突により、1ヶ月後に地球が滅亡することがわかったとしたら。あなたならどうしますか?昔読んだ『渚にて』(ネヴィル・シュート著)というSF小説を思い出しました。泣きわめく?自殺する?静かにその日を待つ?本作で描かれる終末の日はあまりにもリアルで、人類が滅亡するという事実が受け入れられるや否や、あっという間に略奪や殺人が横行するようになります。悲しいことですが、人間というのは法で縛られていることで理性を保つことができるんだと実感しました。狂った世界に成り果てた日本で、そんな中でも必死に自分を奮い立たせる人物もいます。好きな子を意地でも守りたいいじめられっ子の男の子や、元ヤンキーの母親、人を殺してきたばかりのヤクザや、暗い過去を持つ歌姫。秩序のなくなった世界において、一番守りたいものは何か?と問いかけられたかのような衝撃作でした。
8位 『オルタネート』(加藤シゲアキ)
第42回吉川英治文学新人賞!著者はNEWSのメンバーのひとり加藤シゲアキさん。どうしてもジャニーズ作家という話題性で色眼鏡で見てしまう人も多いかもしれませんが、これがまた面白いのですよ!タイトルにもある「オルタネート」という高校生限定マッチングアプリが必須になった時代。このアプリは、共通の趣味を持つ友達を探すこともできるし、自分とぴったり相性が合う恋愛相手を探すこともできます。ほとんどの高校生がオルタネートを使うなか、どうしても馴染めない子たちもいるのです。過去のトラウマから、料理人である父と上手く接することのできない蓉。オルタネート信奉者で、100%相性の合う理想の恋人を探す凪津。そして高校中退によりアプリを使う資格がなくなったものの、どうしてもかつての親友に伝えたいことがある尚志。3人のエピソードを交互に描きながら、最後には怒涛のごとく一つの流れに収束していく手法は本当にお見事で、ページを繰るのがもどかしく感じるほどのめりこみました。爽やかでみずみずしい新時代の青春小説です!
9位 『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)
第164回芥川賞受賞作!純文学として評価される芥川賞はどうしても「読みづらい」印象が強いのですが、本作『推し、燃ゆ』は今までの芥川賞の概念を覆されるほどの読みやすさ。「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」で始まる一文は秀逸です。主人公あかりは"推し"を推すことでなんとか自分を保っているような女の子。SNS上ではしっかり者のキャラを演じる一方で、実際のあかりの生活はひどく自堕落でまともに学校やバイトに通うことすらできないのです。そんな中、あかりの推しがファンを殴ったことでSNSが炎上します。推しもいつかはただの人になる。当たり前のことなのに、あかりにとっては背骨がなくなったようなものです。地を這うような人生を続けるのか、それとも再び背筋を伸ばして人生を歩めるのか?読めば読むほど生々しく、暗い闇に呑み込まれそうな表現力の高さです。著者の宇佐見さんご本人は大学生ということですが、この若さでこの完成度は末恐ろしいですね。
10位 『この本を盗む者は』(深緑野分)
今回の本屋大賞ノミネート作品の中で、最も異色の作品といえば『この本を盗む者は』です。ファンタジーを普段読み慣れていないと、なかなか物語にのめり込めないかもしれませんが、一度この世界に入り込んでしまったらなかなか現実に戻って来られません!高校生・深冬の父が管理人を務める巨大書庫「御倉館」。そこから蔵書が盗まれると本の呪い(ブック・カース)が発動し、街はたちまち物語の世界に姿を変えてゆくという物語です。本が好きな皆さんなら、昔は誰もが「物語の世界に入れたら」と願ったことがあるはずです。でも本作の世界はかなりハードモード。獣の餌にされる世界だったり、人間が消えた街に取り残されたり。ある理由から本嫌いだった深冬は、本を盗んだ犯人を見つけ元の世界に戻る度に、少しずつ心境に変化が訪れていきます。本作の装丁や小見出しも一捻りあり、独特の魅力があふれる作品でした。きっとアニメ化したら面白いだろうなぁ。
まとめ
全国の書店員により選ばれる<本屋大賞>は、私たち一般読者の「面白い」「泣ける」「感動する」感覚に寄り添ったものです。直木賞や芥川賞などの由緒ある文学賞がどうも肌に合わないと感じる方は、ぜひ過去の本屋大賞ノミネート作から選んでみるのはいかがでしょうか?きっとあなたのお気に入りの一冊が見つかるはずです。
古本店『もったいない本舗』では、比較的最近のノミネート作から10年以上前の作品まで、新旧さまざまな小説を取り扱っております。もし気になる作品があったら、ぜひ探してみて下さいね!
ライティング担当 : sakura札幌在住30代。本や少年コミックを読むことが大好きで、家事の合間にハイボールを飲みながら読書をするのが至福のとき。小説はイヤミス、ホラー、児童文学まで好きなジャンルは多岐にわたり、ラストですべてがひっくり返される「大どんでん返し」本を好んで読む。子どもの頃からホラー映画が好きで、最近は『死霊館』や『インシディアス』など心の奥底まで恐怖心をかきたてられるようなジェームズ・ワン監督作品に魅了されている。 |